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オレまに
『Under One Umbrella』



一人の男が雨の中を歩いている。
肩を落とし、背を丸め…

「夕日…見れなかったな」

この男の日課、東京タワーの展望台の上で夕日を見ること。
それは世界が最悪にして、最大の危機から救われた日から始まった。
そして、それは恐らくこれから先も続くであろう日課だ。

「何やってるんだろうな。こんな天気で夕日なんか見れるわけないのに」

この雨の中、傘もささずに歩いているのはこの男ぐらいのものだ。
周囲からは奇異の目で見られている。
だがその中で一人だけ違った視線を向けるものがいた。
黒い傘をさし、長い髪の毛を後ろで結っている女。
魔鈴めぐみ、その人である。

「横島さん?」
「魔鈴さん…」

魔鈴は横島の前に立つと持っている傘を横島の頭上へと掲げた。

「風邪をひいてしまいますよ」
「ありがとうございます…」

横島は微笑みながら礼を述べる。
しかしその笑みは作られたもの…まるで能面のようであった。

「送りますよ、さぁ」
「でも…」
「さぁ」

二人は歩き出す。
横島は表情を変えず、魔鈴はすこし嬉しそうな顔で…

「ほんと、すみません」
「いいんですよ。横島さんとこうやって歩けて嬉しいですから」

魔鈴は本当に嬉しそうに言う。
対する横島はその答えに少々面食らったようだ。

「「・・・・・・・・」」

二人とも恥ずかしかったのか無言の時間が続く。
どのくらいの時間、無言だったろうか?
魔鈴が急に口を開いた。

「事情は聞きました」
「そう…ですか…」

事情とはルシオラのこと。
横島の心を照らす光であり、影を作る存在でもある。

「元気を出してください」

魔鈴が横に並ぶ横島の手を握る。

「いつものように笑ってください。でないと私…きっとルシオラさんも悲しいです」
「魔鈴さん…」

そして二人はまた無言の時を過ごす。
しばらく歩くと横島のアパートに着いた。

「ありがとうございました」
「横島さん!」

礼を言って部屋に入ろうとする横島を魔鈴が呼び止める。

「今度お店のほうに来てください。ご馳走を用意しときますから」

そう言ってにっこりと笑いかける。
そして去り際に

  ふわり

横島の頬に触れる程度のキス…

「では…」
「魔鈴さん!!」

立ち去る魔鈴を今度は横島が呼び止める。

「絶対行きますから、とびっきりのお願いしますよ!」

そう言って笑う。
今度は作り物ではない、本物の笑み。

「もちろんです。それと横島さん? やっぱり笑った顔の方が素敵ですよ」

二人は同時に背を向けるとそれぞれ帰路につく。

男は肩をはり、背筋を伸ばし

女は鼻歌交じりに





2003/03/09 「夜に咲く話の華」小ネタ掲示板にて掲載

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