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オレまに

「いつもありがとな、おキヌちゃん」
「いいんですよ」

笑顔で礼を言う横島と笑顔で返すおキヌ。
ぱっと見、夫婦にも見えなくもない雰囲気をかもし出している。
実状は通い妻といったところか。

「今日は肉じゃがです」
「おキヌちゃんの料理は何でも旨いからなぁ。楽しみに待ってるよ」

ここ横島のアパートにはおキヌが晩御飯を作りに来ていた。
昔からたまにこういったことをしてきたおキヌだがここ最近、頻繁に見られる光景だ。
原因はやはり横島である。
数週間前から横島は小口の依頼を一人で行うようになった。
それに伴って横島の自由な時間は減り、只でさえほとんど自炊していなかった横島はますますジャンクフードへの依存を強めていったのだ。
横島の食生活を知るおキヌはそんな横島を心配しこうして作りに来ているわけだ。

「さぁ、できましたよ」
「美味そうだ! いっただきまーす」
「そんなに急がなくてもご飯は逃げないですよ」

横島は鬼気迫る勢いで食べる、食べる、食べる。
おキヌは愛しい人が自分の料理を食べているということで嬉しさが顔に滲み出ている。
横島とおキヌの楽しい一時はあっとゆう間に過ぎていった。




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「Emotional Dependence」

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「ふー、ごっとさん」
「お粗末様でした」

横島は満足そうに上体を反らし胃の辺りを撫でている。

「お茶入れましょうか?」

おキヌも横島が残さず食べてくれたので満足そうだ。

「いや、いいよ。すぐに出かけるから」
「え?」
「仕事だよ。食器は置いといて、帰って片付けるから」

そう言うと横島は出かける準備を始める。
前に書いたように最近の横島は多忙だ。
令子が受けないような小口の除霊を一人で行っている。
儲けは依頼料の8割から経費を差っ引いた分、2割は令子に上納している。
そしてこの処遇は令子なりの優しさ。
アシュタロスの一件以来、一人で塞ぎ込むことが多くなった横島のためだ。

「うじうじしてるぐらいなら仕事でもしてきなさい!!」

とは令子の言だ。
一人にしておくとネガティブな思考に陥る横島。
ならば考える時間をやらねば良いと思ったのだろう。
最初はそれで良かった。
だがそのことに感づいた横島は令子の優しさに感謝し、恩返しとばかりに上納金を納める。
ここ2、3日では令子に逆に休めと言われるぐらいだ。

「横島さん、少しは休んだらどうですか?」

仕事だと聞いたおキヌは顔をしかめる。

「? 休みはきちんととってるよ」

横島は休んでいると言い張る。
だが、誰の目から見ても休んでいないようだ。
事実、横島はやつれてきている。

「…じゃぁ、今日は私も手伝います!」
「簡単な除霊だから大丈夫だよ。それに夜も遅いし」

横島は小口の依頼を受けるとき、必ず一人で行く。
誰が手伝うといってもやんわりと、しかし明確な意思を持って拒絶するのだ。

「どうして…どうして、そんなに無理をするんですか?」
「無理なんかしてないよ」
「してます!!」

横島は驚いていた。
おキヌがこんなに声を荒げて言ってくるとは思ってもみなかったのだ。

「私、そんなに頼りないですか?」

おキヌは目を伏せ、横島に問いただす。

「ご飯の事もです。
 前は喜んで作ってくれって言ってくれました。
 でも今は、すごく遠慮して…作るなって言われてる気がして…
 そんなに頼りないですか?
 横島さんのご飯作ったり、お仕事手伝っちゃいけませんか!?」

言い終わったおキヌはその瞳を真っ直ぐ横島へと向ける。
涙をいっぱいに溜め込んで…

「そ、そんなことない! 料理は美味しいし、仕事だって頼りにしてる」
「じゃぁなんで除霊に連れて行ってくれないんですか!? 前みたいにご飯を頼んでくれないんですか!?」

横島はおキヌをなだめようとするがその剣幕は収まるどころかますます強くなる。

「そ、それは…」

そんなおキヌに横島は言葉を詰まらせてしまった。

「やっぱり、頼りないとか思ってるんじゃないですか!!」
「ち、違う!!」

ぎゅっ!

ついにおキヌはその瞳から大粒の涙をぼろぼろと溢してしまう。
それを見た横島は叫びながら思わずおキヌを抱きしめてしまった。

「…どう思ってるんですか?」
「それは…」

横島のほうが背が高い、抱きしめたときにおキヌはその腕の中にすっぽりと収まってしまった。
その状態からおキヌは横島の顔を覗き込むようにして下から見上げていた。

「…怖くて…
 ルシオラがいなくなって、俺の大切な人がいなくなって…怖かったんだ。
 また、大切な人がいなくなってしまうんじゃないかって……
 俺の前から消えてしまうんじゃないかって……
 そう思うと…おキヌちゃんの側にいるのが怖くなって…
 ごめん…本当にごめん」
「横島さん」

おキヌは手を伸ばすと横島を今度はおキヌからしっかりと抱きしめる。

「私はいなくなったりしません。
 横島さんを置いて消えたりしません。
 だから、だから、私から離れないで…
 
 ずっとずっと、側にいてください」
「ありがとう」

横島のおキヌを抱く手にも力がこもる。
そして二人はお互いの存在を確かめるように強く抱き合い、長いキスをする。

「「ずっと一緒に…」」











その後、横島の食事を毎日作るようになったおキヌを令子が僻んだりするのだが、それはまた別のお話…





2003/03/11 「夜に咲く話の華」小ネタ掲示板にて掲載

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