ガッ!
ドゴォ!
「ヨコシマ!」
横島が吹き飛ばされ壁に激突する。
タマモは横島に駆け寄ろうとしたが目の前の悪霊はそれをさせてくれそうにもなかった。
「よくもっ!」
横島は気を失ったのかピクリとも動かない。
タマモは横島のことが気がかりだったが目の前の相手に集中した。
事の始まりは横島とタマモの二人で除霊に出かけたところからであった。
たまたま依頼が重なり大口の依頼を美神、おキヌ、シロの面子で、小口の方を横島とタマモの二人が担当することになった。
横島とタマモの二人が担当したのは簡単な除霊の筈だった。
しかし現場に着いてみると依頼内容には無い、強力な霊が現れたのである。
多少の油断があった二人はその霊の対処に遅れてしまった。
不意打ちを受けたタマモを庇い、横島はその攻撃をモロに喰らってしまったのである。
「これでもっ…!」
タマモは悪霊に向け鬼火を放つ。
しかし怒りに任せた安直な攻撃は簡単にかわされてしまった。
すぐさま悪霊の反撃が来る。
それをかわしたタマモが再び鬼火を放ち直撃するものの効き目は薄いようだ。
悪霊はふらつく程度でダメージ自体は確認できなかった。
「チッ…私じゃ倒せない? あのバカ犬でもいれば」
タマモが愚痴るのも無理は無い。
そもそも攻撃にタマモは向いていないのである。
タマモの得意とする分野は幻影、幻覚…相手を惑わしスキを作る。
補助が主体のタマモにこの悪霊は荷が重かった。
「いちかばちか…」
タマモは持てる全霊力を直接ぶつける事に決めた。
セリフ通りいちかばちかである。
だが他に方法が無いのも事実。
「でぇあぁぁぁぁぁ!!!!」
右の拳に霊力を集中させ悪霊へ向け走る。
ガキッ!
迎撃の一撃をかわし、その攻撃は命中する。
「やった!?」
タマモは歓喜の声をあげた。
その気の緩みがタマモの明暗を分ける。
悪霊を仕留めたわけではなかったのである。
タマモの全身全霊の攻撃に耐え切った悪霊はタマモの首を締め上げる。
「ぐっ!」
そこで今までピクリともしなかった横島が目を覚ます。
彼の目には首を掴まれ、高々と持ち上げられたタマモの姿が映っていた。
「タマモ!」
(もう、誰も死なせはしない!!)
軋む体を強引に持ち上げる。
「がぁぁぁぁぁぁ!!」
雄叫びを上げながら悪霊の懐へと走りこむ。
『 消 滅 』
右手に握り締めた文殊を拳ごと悪霊へ叩き込んだ。
同時に霧が発散するように悪霊の体は空気へ散った。
どさっ!
悪霊が消えると横島はそのまま前のめりに倒れこんだ。
急に開放されたタマモは座り込んで呼吸を整えている。
「ヨコシマっ!」
タマモは横島を抱き起こした。
とくんっ とくんっ とくんっ
息はある。
再び気を失っただけのようだ。
「ヨコシマ…無茶するんだから…」
タマモは横島をそっと自分の膝に寝かせる。
族に言う膝枕というやつだ。
「依頼主に文句言わなくっちゃね…」
そう呟いて横島の顔に目をやる。
特に苦しんでいる様子は無い。
「庇ってくれたヨコシマ…ちょっとカッコ良かったわよ。
ありがと」
横島の顔を少し持ち上げてその唇に自分の唇を重ねる。
その彼の右手にはあの二色の文殊がしっかりと握られている。
今まで作ろうとしても作れなかった文殊が…
殺伐としたビルの中だがその二人の周りだけは、とても優しい雰囲気が漂っていた。
2003/03/14 「夜に咲く話の華」小ネタ掲示板にて掲載
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