「う〜ん、せんせぇ…」
「お、おいシロっ…って寝てるのか?」
横島とシロは修行のため山篭りをしている。
二人はテントの中、一日の修行を終え今から寝るところだ。
シロは寝ぼけているのか横島の胸に顔を埋めスリスリしている。
寝袋であればこんな事にはならなかっただろうが生憎と今は初夏、寝袋はちょっと暑かった。
(こ、この状態は…いくら相手がシロとはいえ…)
そんなわけで横島は今、煩悩と戦っていた。
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「warm-hearted」
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(ぬぅぅぅぅ…)
かれこれ30分、横島は悶々とした時を過ごしていた。
彼は頑張っている。
何せあれから更に密着度は増していたのだから…
(煩悩退散、煩悩退散、煩悩たいさーーーーーーん!!!)
「せんせぇ」
その時、シロは横島のことを呼ぶと背に回していた手をキツク締める。
その様はまるで宝物を大事に抱える子供そのものだ。
ふっと横島の脳裏から煩悩が消える。
代わりに愛しさが溢れてくる。
横島もシロを抱いてやると片手でその頭をそっと撫でた。
「うぅん…」
シロがくすぐったそうな声をあげる。
(やっぱコイツ、犬だ)
失礼なことを考えつつ横島はシロの存在について考え出した。
ルシオラを失ってから横島に対する周囲の反応は変わった。
横島自身は悲しみから立ち直り、また歩き出そうとしていたのに…
それは周囲が許さなかった。
令子やおキヌは今まで通りに振舞おうとしていたが違和感があった。
小竜姫なんかは慰めようと一生懸命だ。
横島にはそれが嬉しくもあったし鬱陶しくもあった。
周囲が考えているほど横島は弱くない。
そんな中、以前と変わらず懐いてくる存在…それがシロだった。
横島にはそれが何よりも嬉しかった。
そんな事を考えていると目の前の少女が更に愛しく思えてくる。
そして込み上げてくるのは感謝の言葉。
「ありがとうな」
横島はシロに向かってそう呟くと頭を撫でていた手でシロの前髪を分けると、額にキスをした。
そうして横島も眠りへと落ちていった。
「せんせぇ…」
嬉しそうに師を呼ぶ少女の傍らで…
2003/03/15 「夜に咲く話の華」小ネタ掲示板にて掲載
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