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オレまに



稲妻

「はぁ…つてないな。いきなりこの雨だもんな」

ごそっ

「ん?」

横島は雨を避けつつ帰宅するため上に遮るものの多い細い路地を歩いていた。
そこから伸びるさらに細い路地から物音と、妖怪の気配がしている。

「まったく、ついてないな」

人気の無い裏路地とはいえここは街中。
いつ人に被害を及ぼすかわからない妖怪を放っておくわけにはいかなかった。
横島はゆっくりと気配へ近づいていく。

「は、ハーピー!?」

気配の正体はいつぞや智恵美とちいさな令子と同時期に現れたハーピーであった。
その姿からはいつか見た妖怪としての力強さ、美しさが感じられない。
ハーピーは壁にもたれかかり、雨露をしのいでいる。
傷つき、冷たい雨に濡れ、その美しい羽は汚れていた。
その姿を見て驚いている横島にハーピーが声をかける。

「子供の美神と一緒にいたやつか…あたいを殺しに来たのか?」
「なっ!!」

絶句。
驚いているところにこの言葉。
横島は害を及ぼすような危険な妖怪なら除霊しようと考えていたが今、ハーピーと戦おうと思っていなかった。
それに、戦ったときの記憶からすぐにでも襲い掛かってくると思っていたのだ。
しかしハーピーからは戦いの意思は感じられず、諦めの想いが伝わってくる。
それどころか死に場所を求めているような印象すら受けた。

「何をいってるんだ。親玉は倒した…魔界で何か言われるかもしれないけどゆっくり休めばいいじゃないか」

ハーピーは沈痛な面持ちで答える。

「あたいはあのお方を尊敬していたじゃん。力強く、禍々しく、あんな魔族に憧れていたじゃん。
 だからあたいはあのお方の元で働いたじゃん。いつかあんな風になろうと。
 あのお方を追いかけたじゃん。
 だが任務に失敗して、ようやくシャバに戻ったと思ったらどうだい?
 ここにいても感じられた存在感が感じられないじゃん。
 あたいは最後まであのお方の役に立てなかったじゃん…
 それに魔界に帰っても軍に追いかけられ、罰せられるだけじゃん」

ハーピーは生きる目標を失っていた。
生きるための想いという名の羽を失っていた。

「目標はまた探せばいいじゃないか。とにかく傷の手当てをしよう。」

横島に今のハーピーを励ますことは難しかった。

「あたいを殺しに来たんじゃないなら構うな!!」

ビュッ!

近づこうとした横島にフェザーブレッドが放たれる。
横島はフェザーブレッドを何とかかわすと身構えたが2度目は無かった。
ハーピーはうめき、倒れていた。

「お、おいっ」
「あたいにかまうな…」

横島はハーピーに駆け寄ると抱き起こす。
軽く、冷たい。
ハーピーがいかに衰弱しているかを横島は再度感じた。

「簡単に死のうと思うなよ。
 残された奴がどんな思いをするか考えたことあるのか…」
「あたいのことを心配する奴なんかいないじゃん」
「少なくとも俺はする。
 もう誰も死なせはしない」
「はんっ、あたいはあんたらを殺そうとしたじゃん?
 そのあたいを死なせはしない? とことん甘い奴じゃん」
「もう俺たちを殺す必要は無いだろう?
 おまえはもう敵じゃない…ただの傷ついた女だ」

そう言うと横島はハーピーに自分のジャケットをかける。

「・・・・・・」

ハーピーは横島の様子から何かを感じたのかされるがままだ。
横島はハーピーを背負うと細い路地を歩き出した。

「怪我が治ったらまた殺そうとするかもしれないじゃん?」

横島は一度歩みを止め、下がってきたハーピーを背負いなおす。

「怪我が治らなきゃ俺たちは殺せないだろ?
 それにおまえはそんな奴じゃ無いと思うから…」

そして再び横島は雨の中、歩き出した。

「おまえじゃないじゃん」
「ん?」
「あたいはシェラって言うんだ。おまえじゃないじゃん」
「俺は「横島忠夫だろ?」・・・・・」
「前に自己紹介してきたじゃん」
「そうだっけ?」
「そうじゃん」

横島が背負ったシェラがまた下がってくる。
歩みを止め、また背負いなおす。

「帰って傷の手当てしたら暖かいもんでも出してやるよ
 シェラの体…ずいぶん冷たいからな」
「・・・・・・・・」

「シェラ?」
「…ありがとう…」

横島は少し驚いた様子で、それでいて少し照れながら答えを返す。

「どういたしまして」

背負われるままだったシェラは横島にしがみ付く。
シェラはこの世界に戻ってきたとき、喪失感に包まれていた。
アシュタロスという尊敬していた、圧倒的な存在感を持った者を失って…
だが今はとても温かな、心地の良いものに包まれている。
それがこの横島という人間によってもたらされたものというのが気に食わなかったが、今はそれでもいいかと思った。

いつしか雨はあがっていた。
二人の目の前には美しい虹が見える。

「綺麗な虹だな」
「そうだね」










pedoroさんのリクエストでハーピーSSです。
2003/03/30 「夜に咲く話の華」小ネタ掲示板にて掲載

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